ひき逃げ被害とは
「ひき逃げ」とは、交通事故を起こした加害者が、負傷者の救護や警察への報告といった義務を怠り、現場から立ち去る行為を指します。そして、「ひき逃げ被害」とは、このひき逃げによって負傷したり、財産に損害を受けたりした状態を言います。
道路交通法では、交通事故を起こした運転者に対し、以下の義務を課しています。
道路交通法第72条(交通事故の場合の措置) 交通事故があったときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この条において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したため当該措置を講ずることができないときは、その他の乗務員)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署の警察官に、当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及び損壊の程度、当該交通事故について講じた措置その他政令で定める事項を報告しなければならない。
ひき逃げは、この救護義務と報告義務に違反する行為であり、非常に悪質な犯罪とされています。被害に遭われた方は、身体的な苦痛だけでなく、精神的なショックや、その後の手続きに関する不安を抱えることが少なくありません。
知っておくべき理由
ひき逃げ被害に遭った際、この用語や関連する制度を知らないと、適切な対応ができず、後々大きな不利益を被る可能性があります。例えば、以下のような状況に陥ることが考えられます。
治療費や休業損害が補償されない可能性がある
加害者が特定できない場合、治療費や入院費、仕事を休んだことによる収入の減少(休業損害)を誰に請求すれば良いのか分からず、ご自身で全額負担することになるかもしれません。特に、重傷を負った場合、治療費は高額になり、生活に大きな影響を及ぼします。精神的苦痛に対する賠償を受けられない恐れがある
ひき逃げは、被害者にとって身体的な苦痛だけでなく、強い精神的苦痛を伴います。しかし、加害者が不明なままでは、慰謝料などの精神的損害に対する賠償を求めることが困難になります。警察への初期対応が遅れ、加害者特定が難しくなる
事故直後の混乱から、警察への通報が遅れたり、現場の状況を正確に伝えられなかったりすると、加害者の特定に必要な証拠が失われやすくなります。その結果、加害者が見つからず、泣き寝入りせざるを得ない状況に追い込まれることもあります。ご自身の保険が適用されない、または手続きが煩雑になる
ご自身が加入している保険の中には、ひき逃げ被害の場合に適用されるものもありますが、事故状況の証明が不十分だと、保険金の請求がスムーズに進まないことがあります。
このように、ひき逃げ被害に関する知識がないと、経済的な負担が増えるだけでなく、精神的な回復にも悪影響を及ぼし、長期にわたって苦しむことにつながる可能性があります。
具体的な場面と事例
ひき逃げ被害は、様々な状況で発生します。
歩行中に車に衝突され、運転者がそのまま走り去ったケース
夜間、横断歩道を渡っていた際に車に衝突され、転倒。運転者は救護することなく走り去り、被害者は路上に倒れたまま発見されました。幸い命に別状はありませんでしたが、骨折し、長期の入院とリハビリが必要となりました。加害車両のナンバーは目撃されておらず、防犯カメラの映像も不鮮明で、加害者特定は困難を極めました。自転車で走行中に接触され、転倒したケース
通勤途中、自転車で車道を走行中に後方から来た車と接触し、転倒。運転者は「大丈夫か」と声をかけたものの、被害者が起き上がれないのを見ると、すぐに車を発進させて立ち去りました。被害者は打撲と擦過傷を負いましたが、加害者の顔や車の特徴を覚えておらず、警察に届け出たものの捜査は難航しました。駐車場で車を当て逃げされ、加害者が不明なケース
スーパーの駐車場に車を停めて買い物を終え戻ると、自分の車のドアに擦り傷とへこみができていました。周囲に目撃者はおらず、警察に連絡しましたが、加害車両の特定には至らず、修理費用はご自身の保険を使うか、自己負担となりました。
これらの事例では、被害者は身体的・精神的な苦痛だけでなく、加害者が不明であることによる金銭的な負担や、その後の手続きの煩雑さに直面しています。
覚えておくポイント
- 事故直後に警察へ通報する:どんなに軽微な事故でも、必ず警察に連絡し、事故状況を記録してもらいましょう。これが、加害者特定の第一歩であり、保険請求にも不可欠です。
- 目撃者を探し、証言を得る:事故を目撃した人がいれば、連絡先を聞き、警察に情報提供してもらうよう依頼しましょう。加害車両の色、車種、ナンバー、運転者の特徴など、些細な情報でも重要です。
- ドライブレコーダーや防犯カメラの確認:ご自身の車にドライブレコーダーが搭載されているか、事故現場周辺に防犯カメラがないかを確認しましょう。映像は加害者特定の有力な手がかりとなります。
- 「政府の保障事業」の活用を検討する:加害者が特定できない場合でも、治療費や休業損害などの補償を受けられる「政府の保障事業」という制度があります。警察への届け出が前提となりますが、この制度の利用を検討しましょう。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。