事業譲渡とは

事業譲渡とは、会社が行っている事業の一部または全部を、他の会社に売却する取引のことです。M&A(企業の合併・買収)の手法の一つとして知られています。

例えば、A社が複数の事業(飲食事業、不動産事業、IT事業など)を営んでいるとします。このA社が、飲食事業だけをB社に売却する場合、これが事業譲渡にあたります。会社そのもの(法人格)を売買する株式譲渡とは異なり、事業に関連する資産(店舗、設備、在庫)、負債(仕入れ債務など)、契約(取引先との契約、従業員との雇用契約など)、ノウハウなどを個別に選んで譲渡できる点が特徴です。

事業譲渡では、譲渡の対象となる事業を構成する個別の財産(不動産、機械、商品、債権など)や契約上の地位、さらには従業員との雇用契約なども、それぞれ個別に譲渡の手続きが必要となります。そのため、株式譲渡に比べて手続きが複雑になる傾向があります。しかし、買い手側から見れば、不要な資産や負債を引き継がずに、必要な事業だけをピンポイントで取得できるというメリットがあります。

知っておくべき理由

近年、事業譲渡が注目される背景には、いくつかの社会的要因があります。

一つは、中小企業の事業承継問題です。日本では、経営者の高齢化が進む一方で、後継者が見つからない中小企業が増加しています。こうした企業が、廃業を避けて事業を存続させる手段として、事業譲渡を選択するケースが増えています。特に、複数の事業を営んでいる企業が、中核事業に集中するため、あるいは後継者の負担を軽減するために、一部の事業を譲渡する動きが見られます。

二つ目は、企業の選択と集中戦略の加速です。企業が競争力を高めるためには、自社の強みである中核事業に経営資源を集中させることが重要です。そのため、本業と関連性の低い事業や、収益性が低い事業を切り離す手段として、事業譲渡が活用されています。これにより、企業はより効率的な経営体制を構築し、成長戦略を推進することが可能になります。

三つ目は、新しい技術やビジネスモデルへの対応です。変化の速い現代において、企業は常に新しい技術を取り入れ、ビジネスモデルを革新していく必要があります。自社でゼロから事業を立ち上げるよりも、すでに実績のある事業を譲り受けることで、時間やコストを削減し、迅速に市場に参入できるというメリットがあります。

これらの要因が複合的に作用し、事業譲渡は企業の成長戦略や事業再編、さらには社会全体の経済活性化に貢献する重要なM&A手法として、その存在感を増しています。

どこで使われている?

事業譲渡は、様々な業界や企業の状況に合わせて活用されています。具体的な場面や事例をいくつかご紹介します。

  • 後継者不在の中小企業の事業承継
    地方の老舗旅館が、後継者が見つからず廃業を検討していたところ、観光事業に参入したい大手企業に旅館事業を譲渡した事例があります。これにより、旅館は存続し、従業員の雇用も守られました。

  • 企業の事業再編・選択と集中
    大手電機メーカーが、収益性が低迷していた家電事業を、特定の分野に強みを持つ中堅企業に譲渡したケースです。メーカーは半導体事業などの中核事業に経営資源を集中させ、譲り受けた企業は家電事業の専門性を高めることができました。

  • 新規事業への参入・事業規模の拡大
    IT企業が、食品宅配サービス事業に参入するため、すでに一定の顧客基盤と配送網を持つ食品ベンチャー企業の宅配事業を譲り受けた事例です。これにより、IT企業はゼロから事業を立ち上げるよりも短期間で市場に参入し、事業規模を拡大することができました。

  • 不採算事業の整理
    複数の店舗を展開する飲食チェーンが、一部の不採算店舗の事業を、その地域に特化した別の飲食業者に譲渡する場合があります。これにより、チェーン全体としての収益性を改善し、経営資源を他の有望な店舗に集中させることが可能になります。

このように、事業譲渡は、企業の成長戦略、事業の整理、そして社会的な課題解決の手段として、多岐にわたる場面で活用されています。

覚えておくポイント

事業譲渡を検討する際に、特に重要なポイントを3点ご紹介します。

  1. 譲渡対象の範囲を明確にする
    事業譲渡では、どの資産、どの負債、どの契約、どの従業員を譲渡するのかを具体的に特定し、明確に合意することが非常に重要です。例えば、不動産は譲渡するが、その上に建つ建物は譲渡しない、といった複雑なケースもあります。後々のトラブルを避けるためにも、対象範囲を詳細にリストアップし、契約書に明記することが不可欠です。

  2. 従業員の同意と承継手続き
    事業譲渡に伴い、譲渡対象事業に従事する従業員の雇用契約も、譲受会社に引き継がれることが一般的です。しかし、労働契約は原則として従業員の同意がなければ譲渡できません。そのため、従業員に対して事業譲渡の目的や条件を丁寧に説明し、個別に同意を得る手続きが必要です。このプロセスを怠ると、従業員の離反や訴訟リスクにつながる可能性があります。

  3. 競業避止義務と債務の承継
    事業譲渡契約には、譲渡会社が一定期間、譲渡した事業と同じ種類の事業を行わないという「競業避止義務」が課されることが一般的です。また、譲渡対象事業に関する債務(借金など)については、原則として譲受会社には引き継がれませんが、商号を継続して使用する場合など、特定の条件下では譲受会社が債務を負う可能性もあります。これらの法的な側面について、事前に十分に理解し、専門家と相談しながら契約内容を慎重に検討することが大切です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。