近年、インターネットやSNSの普及により、悪質なデマや嫌がらせが瞬く間に広がり、企業やお店の業務に大きな損害を与えるケースが増えています。このような行為を取り締まる法律の一つに「偽計業務妨害罪」があります。
この法律は、単なる迷惑行為にとどまらず、事業者の信用や経済活動に深刻な影響を及ぼす行為から、社会の健全な経済活動を守るための重要な役割を担っています。
偽計業務妨害罪とは
偽計業務妨害罪とは、刑法第233条後段に定められている犯罪です。その内容は、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害した者」が処罰されるというものです。
簡単に言えば、嘘の情報を広めたり(虚偽の風説の流布)、人を騙したり(偽計)して、他人の仕事や事業を邪魔する行為を指します。
ここでいう「業務」とは、営利目的の事業だけでなく、病院や学校、NPO法人などの非営利団体が行う活動や、公務員の職務なども含まれます。また、「妨害」とは、実際に業務が完全に停止しなくても、業務の円滑な遂行が困難になるような状態を引き起こせば成立するとされています。
例えば、ある飲食店について「食中毒が発生した」という嘘の情報をSNSで流したり、予約システムに大量の架空予約を入れたりする行為がこれに該当します。行為者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される可能性があります。
知っておくべき理由
偽計業務妨害罪が近年特に注目されるようになった背景には、インターネットやSNSの急速な普及があります。
かつては、悪質なデマや嫌がらせが広まる範囲は限定的でした。しかし、現在では、SNSでの投稿一つが瞬く間に拡散され、多くの人々の目に触れることで、企業や店舗の信用が短時間で失われ、業務に甚大な影響を与える事態が頻繁に発生しています。
例えば、
- SNSでの誹謗中傷やデマの拡散: 根拠のない悪評や虚偽の情報をSNSで流され、顧客が離れてしまう。
- 迷惑行為の動画投稿: 店舗内で迷惑行為を行い、その様子を動画で拡散することで、店舗のイメージを著しく損なう。
- いたずら注文や予約: 大量のキャンセルを前提としたいたずら注文や、架空の予約を繰り返すことで、本来の顧客の機会損失や業務の停滞を引き起こす。
このような行為は、単なるいたずらでは済まされず、事業者の売上減少、従業員の精神的負担、ブランドイメージの失墜など、深刻な被害をもたらします。そのため、企業や店舗がこのような被害に直面した際に、法的手段として偽計業務妨害罪の適用を検討するケースが増え、メディアでも報じられる機会が多くなっています。
どこで使われている?
偽計業務妨害罪は、多種多様な場面で適用が検討されます。具体的な事例をいくつかご紹介します。
- 飲食店に対する悪質なデマ:
「あの店で異物混入があった」「食中毒が出た」といった虚偽の情報をインターネット掲示板やSNSに投稿し、客足が遠のいた。 - 小売店への迷惑行為:
商品棚を荒らす、商品を舐める、店内で大声を出すなどの迷惑行為を動画に撮影し、SNSに投稿して店舗の営業を妨害した。 - 企業への嫌がらせ電話やメール:
顧客を装って企業に大量のクレーム電話やメールを送りつけ、通常の業務を麻痺させた。 - イベント主催者への妨害:
開催予定のイベントについて「中止になった」という虚偽の情報を流し、参加者が激減した。 - 病院や学校への虚偽の情報提供:
「病院に爆弾を仕掛けた」「学校で事件が起きる」といった嘘の情報を警察に通報させ、業務を停止させた。
これらの事例では、行為者が直接的に物理的な力を行使していなくても、嘘の情報や巧妙な手段(偽計)を用いることで、他人の業務を妨害している点が共通しています。
覚えておくポイント
偽計業務妨害罪について、一般の方が知っておくべきポイントをいくつかご紹介します。
- 「嘘」や「騙し」がポイント: この罪が成立するためには、虚偽の情報を流したり、人を騙すような手段を用いたりすることが必要です。単なる不満や批判の表明は、通常、偽計業務妨害罪にはあたりません。しかし、それが事実と異なる誹謗中傷であれば、名誉毀損罪などが成立する可能性はあります。
- 実際に業務が止まらなくても成立する: 業務が完全に停止しなくても、業務の円滑な遂行が困難になったり、混乱が生じたりすれば、この罪は成立する可能性があります。例えば、デマによって問い合わせが殺到し、本来の業務に支障が出た場合などが該当します。
- インターネット上の行為も対象: SNSや匿名掲示板など、インターネット上での行為であっても、それが業務妨害にあたる場合は処罰の対象となります。匿名だからといって、責任を免れることはできません。発信者情報の開示請求などによって、投稿者が特定される可能性も十分にあります。
- 被害に遭ったら専門家へ相談: もしご自身のお店や会社が偽計業務妨害の被害に遭った場合は、速やかに警察に相談するとともに、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。証拠の保全や、損害賠償請求などの民事上の対応についてもアドバイスを得られるでしょう。
この法律は、社会の健全な経済活動を守るために重要な役割を果たしています。安易な気持ちで他人の業務を妨害するような行為は、重大な結果を招く可能性があることを理解しておくことが大切です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。