配偶者短期居住権とは

配偶者短期居住権とは、配偶者が亡くなった際に、残された配偶者が住み慣れた自宅に一時的に住み続けられる権利のことです。これは、2020年4月1日に施行された改正民法によって新設された制度で、それまで残された配偶者の住まいがすぐに失われる可能性があった問題を解決するために導入されました。

具体的には、被相続人(亡くなった方)が所有していた建物に、相続開始時に配偶者が無償で住んでいた場合、その配偶者は、相続開始から最低6ヶ月間、または遺産分割が確定するまでの間、引き続きその建物に住むことができると定められています。この権利は、遺産分割協議が長引いたり、相続人の中に建物の売却を希望する人がいたりする場合でも、配偶者がすぐに住む場所を失うことを防ぐためのものです。

民法第1038条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者に対し、居住建物の取得の時から六箇月を経過する日又は遺産分割により居住建物の所有権を取得すべき者が確定する日のいずれか遅い日までの間、居住建物を無償で使用する権利を有する。 一 配偶者が居住建物の所有権を相続又は遺贈により取得しないとき。 二 配偶者が居住建物の所有権を放棄したとき。

この権利は、配偶者がその建物の所有権を相続しない場合や、所有権を放棄した場合に適用されます。あくまで一時的な権利であり、永続的に住み続けられる権利ではない点に注意が必要です。

知っておくべき理由

この配偶者短期居住権を知らないと、大切な人を亡くした悲しみの中で、住む場所まで失ってしまうという事態に直面する可能性があります。

例えば、夫が亡くなり、妻が長年住み慣れた自宅で生活していたとします。その自宅は夫名義で、相続人は妻と夫の兄弟姉妹でした。夫の兄弟姉妹が「早く遺産分割をしたいから、家を売却して現金を分けよう」と主張した場合、妻はすぐに自宅を出ていかなければならない状況に追い込まれる可能性がありました。

遺産分割協議は、相続人の人数や関係性によっては数ヶ月から数年かかることも珍しくありません。その間、住む家がなくなるとなると、精神的にも経済的にも大きな負担となります。特に、高齢の配偶者の場合、新たな住まいを探したり、引っ越し費用を捻出したりすることは容易ではありません。

配偶者短期居住権を知っていれば、少なくとも6ヶ月間、または遺産分割が確定するまでは、自宅に住み続けることができるため、その間に落ち着いて今後の住まいについて検討したり、引っ越しの準備を進めたりする時間的猶予を得られます。この制度を知らないと、突然の退去を迫られ、混乱の中で不本意な選択を強いられるかもしれません。

具体的な場面と事例

夫が亡くなり、妻と成人した子供が2人いるケースを考えます。自宅は夫名義で、妻は専業主婦でした。

事例1:遺産分割協議が長引くケース
夫の遺産は自宅と預貯金でした。子供たちは自宅を売却して現金を分けたいと考えていましたが、妻は住み慣れた自宅に住み続けたいと希望していました。遺産分割協議はなかなかまとまらず、数ヶ月が経過しました。
この場合、妻は配偶者短期居住権を行使することで、遺産分割協議がまとまるまでの間、自宅に住み続けることができます。その間に、妻は子供たちと話し合いを続けたり、もし自宅を出る必要が生じた場合に備えて、新しい住まいを探す準備を進めることができます。

事例2:相続人の中に自宅の売却を強く希望する人がいるケース
夫が亡くなり、相続人は妻と、夫の前の結婚で生まれた子供(前妻の子)でした。前妻の子は、夫とは長年疎遠で、自宅には住んだことがありませんでした。前妻の子は、相続財産を現金で受け取りたいと強く希望し、自宅の早期売却を主張しました。
妻は突然の夫の死で精神的に不安定な状態でしたが、配偶者短期居住権があることを知っていたため、前妻の子からの退去要求に対しても、「少なくとも6ヶ月間は住み続ける権利がある」と主張することができました。この期間を利用して、妻は弁護士に相談し、自身の権利を守るための具体的な対策を検討する時間を得られました。

覚えておくポイント

  • 配偶者短期居住権は、亡くなった配偶者の自宅に一時的に住み続けられる権利です。
  • 最低6ヶ月間、または遺産分割が確定するまでのいずれか遅い日まで自宅に住むことができます。
  • この権利は、配偶者が自宅の所有権を相続しない場合や放棄した場合に適用されます。
  • 住む場所を失う不安を軽減し、今後の生活を立て直すための時間的猶予を得るために重要な制度です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。