会社で働き始める際、あるいは転職する際に「雇用契約書」という書類を目にする機会があるかと思います。これは単なる形式的な書類ではなく、あなたと会社との間でどのような労働条件で働くのかを明確にし、お互いの権利と義務を定める非常に重要なものです。
雇用契約書とは
雇用契約書とは、使用者(会社)と労働者(従業員)の間で、労働条件について合意した内容を記載した書面のことです。具体的には、働く場所、仕事内容、労働時間、給料、休日、退職に関する事項など、多岐にわたる項目が盛り込まれます。
日本の労働基準法では、会社が労働者を採用する際、特定の労働条件を明示することが義務付けられています。この明示義務は、口頭でも可能とされていますが、トラブル防止の観点から書面で交付することが強く推奨されており、一般的には雇用契約書や労働条件通知書という形で交付されます。
雇用契約書は、会社と労働者の双方にとって、後々の誤解やトラブルを防ぐための「約束事の記録」として機能します。例えば、給料がいくらなのか、残業代はどのように計算されるのか、といった基本的な事項から、有給休暇の取得条件、退職時の手続きまで、働く上で知っておくべき重要な情報が記載されています。
知っておくべき理由
近年、雇用契約書が注目される背景には、働き方の多様化や労働トラブルの増加が挙げられます。
まず、働き方の多様化です。正社員だけでなく、契約社員、パートタイマー、アルバイトなど、様々な雇用形態が存在します。それぞれの雇用形態によって、労働時間や給料、福利厚生などが異なるため、どのような条件で働くのかを明確にすることが以前にも増して重要になっています。
次に、労働トラブルの増加です。長時間労働、ハラスメント、不当解雇、未払い賃金など、労働に関する問題は後を絶ちません。こうしたトラブルが発生した際、雇用契約書に記載された内容が、会社と労働者双方の主張の根拠となることがあります。特に、労働条件が不明確な場合、トラブル解決が難航したり、労働者が不利な立場に置かれたりするケースも少なくありません。
また、2020年4月からは、パートタイム・有期雇用労働法(いわゆる「同一労働同一賃金」)が施行され、正社員と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差をなくすことが求められるようになりました。これにより、雇用契約書に記載される労働条件の公平性や透明性が、これまで以上に重視されるようになっています。
このような社会情勢の中で、労働者自身が自分の労働条件を正しく理解し、会社との間で合意した内容をしっかり把握することの重要性が高まっているため、雇用契約書への関心も高まっています。
どこで使われている?
雇用契約書は、主に以下のような場面で使われます。
入社時・採用時:
最も一般的なのは、新しい会社に入社する際や、アルバイト・パートとして働き始める際に、会社から提示され、内容を確認して署名・捺印する場面です。これにより、会社と労働者の間で労働条件に関する合意が成立します。契約更新時:
有期雇用契約(期間の定めがある契約)の場合、契約期間が満了し、更新する際に新たな雇用契約書が交わされることがあります。この際、労働条件に変更がないか、あるいは変更点がある場合はその内容をしっかり確認することが大切です。労働条件の変更時:
会社の都合や、労働者自身の希望などにより、仕事内容や勤務地、給料などの労働条件が変更される場合にも、新たな雇用契約書が作成されたり、変更内容を記した覚書が交わされたりすることがあります。出向時:
グループ会社への出向など、所属する会社は変わらないものの、働く場所や指揮命令系統が変わる場合にも、出向先での労働条件を明確にするために、雇用契約書に準ずる書面が交わされることがあります。
これらの場面で雇用契約書が使われることで、会社と労働者の間で「言った、言わない」のトラブルを防ぎ、安心して働くための基盤が築かれます。
覚えておくポイント
雇用契約書を受け取った際に、特に注意して確認しておきたいポイントをいくつかご紹介します。
労働条件通知書との違いを理解する
会社によっては「雇用契約書」ではなく「労働条件通知書」を交付する場合があります。労働条件通知書は会社が労働者に対して労働条件を一方的に明示する書面であり、労働者の署名・捺印は必須ではありません。一方、雇用契約書は会社と労働者の双方の合意を示すもので、通常は双方の署名・捺印を求められます。どちらの形式であっても、記載されている労働条件は同じくらい重要ですので、内容をしっかり確認しましょう。記載されている労働条件を細部まで確認する
特に以下の項目は、後々のトラブルに繋がりやすいため、注意深く確認してください。- 賃金:基本給、各種手当(残業手当、通勤手当など)、昇給の有無、計算方法、支払日。
- 労働時間:始業・終業時刻、休憩時間、残業の有無と上限、休日(週休二日制か、年間休日数など)。
- 業務内容・勤務地:具体的にどのような業務を行うのか、転勤の可能性はあるのか。
- 契約期間:期間の定めがある場合は、その期間と更新の有無、更新の判断基準。
- 退職に関する事項:自己都合退職の場合の申し出期間、解雇に関する事項。
- 福利厚生:社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険など)の加入状況、有給休暇の付与条件。
もし不明な点や納得できない点があれば、署名・捺印をする前に必ず会社に確認し、説明を求めましょう。
書面で受け取り、大切に保管する
口頭での説明だけでなく、必ず書面で受け取ることが重要です。また、受け取った雇用契約書は、後日内容を確認する必要が生じる可能性もあるため、大切に保管しておきましょう。電子データで交付された場合も、印刷して保管するか、データがいつでも確認できる状態にしておくことをお勧めします。不利益変更には注意が必要
一度締結した雇用契約の内容を、会社が一方的に労働者に不利益な形で変更することは、原則としてできません。もし会社から労働条件の変更を打診された場合は、その内容が自分にとって不利益ではないか、また、変更の理由や根拠が妥当であるかを慎重に検討し、安易に同意しないようにしましょう。
雇用契約書は、あなた自身の働き方を守るための大切な証拠となります。内容をしっかりと理解し、納得した上で署名・捺印することが、安心して働くための第一歩です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。