CRSとは

CRSとは、Common Reporting Standardの略称で、日本語では「共通報告基準」と訳されます。これは、OECD(経済協力開発機構)が策定した、非居住者の金融口座情報を各国の税務当局間で自動的に交換するための国際的な基準です。

この制度の目的は、国際的な脱税や租税回避を防ぎ、税の透明性を向上させることにあります。具体的には、ある国の金融機関が保有する非居住者の口座情報を、その非居住者の居住地国の税務当局に提供し、情報を受け取った税務当局が自国の税法に基づいて適切に課税できる状態を目指しています。

CRSは、世界中の多くの国や地域で導入されており、日本も2017年からこの制度に参加しています。金融機関は、口座開設時などに顧客の居住地国を確認し、非居住者と判断された口座の情報(口座残高、利子、配当など)を毎年税務当局に報告します。その後、税務当局間で情報が自動的に交換される仕組みです。

知っておくべき理由

CRSについて知っておかないと、思わぬ税務上の問題に直面する可能性があります。例えば、海外に金融資産を持っている方が、その情報を日本の税務当局に申告していなかった場合、CRSによって情報が交換されることで、税務当局から指摘を受けるリスクが高まります。

具体的な事例として、海外赴任中に開設した銀行口座や、海外の証券会社で運用している投資口座などがあります。赴任期間が終わって日本に帰国した後も、これらの口座を保有し続けている場合、その口座は日本の税法上「非居住者が海外に持つ口座」ではなく、「居住者が海外に持つ口座」として扱われます。しかし、CRSにおいては、日本の金融機関が海外の非居住者の情報を報告するだけでなく、海外の金融機関も日本の居住者の口座情報を日本の税務当局に報告します。

もし、海外の金融機関から日本の税務当局に情報が提供されたにもかかわらず、本人がその所得を日本で適切に申告していなかった場合、追徴課税や加算税、延滞税などのペナルティが課される可能性があります。また、税務調査の対象となることも考えられます。

「海外の口座だから日本の税務当局にはわからないだろう」という認識は、CRSの導入によって通用しなくなっています。特に、相続が発生した際に、故人が海外に保有していた金融資産が申告漏れとなっていた場合、相続人がその対応に追われることもあり得ます。

具体的な場面と事例

CRSが関わる具体的な場面は多岐にわたります。

  • 海外赴任からの帰国後も海外口座を保有している場合
    Aさんは数年間海外に赴任し、現地で銀行口座を開設しました。帰国後もその口座を閉鎖せず、少額の預金を残していました。数年後、日本の税務署から「海外の金融機関からAさんの口座情報が提供されていますが、申告漏れの所得があるようです」という連絡を受けました。これは、海外の銀行がCRSに基づいて日本の税務当局にAさんの口座情報を報告したためです。Aさんは、海外口座の利息収入を日本で申告していなかったため、追徴課税の対象となりました。

  • 海外の証券口座で資産運用をしている場合
    Bさんは日本の居住者ですが、海外の証券会社に口座を開設し、株式や投資信託を運用していました。配当金や売却益が発生していましたが、「海外の口座だから」と日本の確定申告では特に触れていませんでした。ある時、税務署から「海外の証券会社からの情報で、Bさんの口座で利益が発生していることが確認されています」との通知が届きました。Bさんは、海外での利益を日本で申告していなかったため、過去に遡って申告と納税を求められ、加算税も課されました。

  • 海外に居住する親族からの贈与や相続
    Cさんは、海外に住む親から贈与を受けました。この贈与は日本の税法上、贈与税の対象となるものでしたが、Cさんは申告をしていませんでした。後日、日本の税務当局が海外の金融機関から親の口座情報を取得し、その口座からCさんへの送金があったことを把握。Cさんは贈与税の申告漏れを指摘されることになりました。

これらの事例は、CRSによって海外の金融口座情報が日本の税務当局に届くようになったことで、税の申告漏れが発覚しやすくなったことを示しています。

覚えておくポイント

  • CRSは、海外の金融口座情報が日本の税務当局に自動的に共有される制度です。
  • 海外に金融資産をお持ちの場合、その所得や資産について日本で適切に申告しているか、定期的に確認することが重要です。
  • 口座開設時に金融機関から求められる居住地国の自己申告書は、正確に記入する必要があります。
  • 自身の居住地国が変わった場合は、速やかに金融機関にその旨を伝え、情報を更新してください。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。