取締役の義務とは

会社の経営を担う取締役には、会社法によって様々な義務が課されています。これらの義務は、会社が健全に運営され、株主や債権者、ひいては社会全体に対して責任を果たすために非常に重要です。

主な義務として、以下のものが挙げられます。

  • 善管注意義務(善良な管理者の注意義務):取締役は、会社の業務を処理するにあたり、その職務を行う上で一般的に要求される程度の注意を払う義務があります。これは、自分の財産を管理するのと同じか、それ以上の注意深さで会社の財産や業務を扱うことを意味します。
  • 忠実義務:取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行う義務があります。これは、会社の利益を最優先し、自己の利益や第三者の利益のために会社を犠牲にしないことを求めます。
  • 競業避止義務:取締役は、会社の事業と競争関係にある事業を自ら行ったり、第三者のために行ったりする場合には、株主総会の承認を得る必要があります。
  • 利益相反取引の制限:取締役が会社と取引を行う場合や、会社と取締役の間で利益が相反する可能性のある取引を行う場合には、取締役会(または株主総会)の承認が必要です。これは、取締役が自己の利益を優先して会社に不利益を与えることを防ぐための義務です。
  • 監視義務:代表取締役以外の取締役も、代表取締役の業務執行を監視する義務があります。不正行為の早期発見や是正に努めることが求められます。

これらの義務は、取締役が会社の経営において負う責任の重さを明確に示しています。

知っておくべき理由

「取締役の義務」という言葉は、一般の会社員の方々にはあまり馴染みがないかもしれません。しかし、もしあなたが会社の役員に就任することになった場合、この義務を知らないと思わぬ責任を問われる可能性があります。

例えば、あなたが中小企業の取締役になったとします。ある日、代表取締役が会社の資金を個人的な投資に流用していることに気づきましたが、「自分は現場の人間だから」と見て見ぬふりをしてしまいました。その後、会社の経営が悪化し、資金流用が発覚した場合、あなたは「監視義務を怠った」として、会社や株主から損害賠償を請求されるかもしれません。

また、あなたが取締役として、会社の顧客を自分の別の会社に引き抜くような行為をした場合、それは「競業避止義務違反」にあたり、会社から訴訟を起こされるリスクがあります。知らなかったでは済まされず、多額の賠償金を支払うことになり、個人の財産を失う可能性も出てきます。

さらに、会社の重要な契約を決定する際に、あなたが個人的な関係のある業者を不当に優遇し、会社に不利な条件で契約を進めてしまった場合、それは「忠実義務違反」や「利益相反取引の制限違反」とみなされ、会社に損害を与えたとして責任を追及されることがあります。

これらの事例のように、取締役の義務を知らないと、意図せず会社に損害を与えたり、個人の責任を問われたりする事態に発展しかねません。

具体的な場面と事例

取締役の義務が問題となる具体的な場面は多岐にわたります。

  • 事例1:不正会計を見過ごした取締役
    ある会社の経理担当取締役が、代表取締役による売上水増し指示に気づきながらも、上司の指示に逆らえず、また自身も責任を負いたくないという思いから、見て見ぬふりを続けました。数年後、不正会計が発覚し、会社は信用を失い倒産。この経理担当取締役は、「善管注意義務」および「忠実義務」を怠ったとして、会社に対し損害賠償責任を負うことになりました。

  • 事例2:競合会社を設立した取締役
    ソフトウェア開発会社の取締役Aが、在職中に会社の技術や顧客情報を利用して、会社の事業と全く同じ分野のソフトウェア開発会社を密かに設立し、顧客を引き抜き始めました。これは明らかに「競業避止義務」に違反する行為であり、会社はAに対し、損害賠償請求訴訟を提起しました。

  • 事例3:個人的な関係のある業者との取引
    建設会社の代表取締役Bが、自身の親族が経営する建設資材業者から、市場価格よりも割高な資材を継続的に購入していました。この取引は、取締役会で適切な承認を得ておらず、会社に不利益を与えていました。これは「利益相反取引の制限」に違反する行為であり、Bは会社に対して損害賠償責任を負うことになりました。他の取締役も、この取引を適切に監視していなかったとして、「監視義務」違反を問われる可能性がありました。

これらの事例からもわかるように、取締役の義務は、会社の経営に関わる全ての判断や行動に影響を及ぼします。

覚えておくポイント

  • 取締役は、会社の利益を最優先し、善良な管理者の注意をもって職務を行う義務があります。
  • 会社の事業と競合する行為や、会社との間で利益が相反する取引を行う場合は、必ず株主総会や取締役会の承認を得る必要があります。
  • 代表取締役以外の取締役も、代表取締役の業務執行を適切に監視する義務があり、不正を見過ごすと責任を問われる可能性があります。
  • 自身の判断に迷った場合は、弁護士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを求めることが重要です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。