表見代表取締役とは
表見代表取締役とは、会社法上の正式な代表取締役ではないにもかかわらず、会社の代表取締役であるかのような肩書きや役職名を使用し、第三者から見て代表取締役であると誤解されるような外観(見た目)を作っている人のことを指します。
会社法では、会社がそのような外観を作ることに責任がある場合、その表見代表取締役が行った行為について、会社も責任を負う可能性があると定めています。これは、取引の安全を守るための制度です。
具体的には、会社の代表権がないにもかかわらず、
- 代表取締役という肩書きを使用している
- 代表取締役社長と記載された名刺を使用している
- 会社のパンフレットやウェブサイトに代表取締役として紹介されている
- 会社の重要な契約書に代表取締役として署名・捺印している
といった状況が考えられます。このような状況で、取引相手がその人を代表取締役だと信じて取引した場合、会社はその取引について責任を負わなければならないことがあります。
会社法第9条 株式会社は、代表取締役以外の者に代表取締役であると誤解させるような名称を付した場合には、当該代表取締役以外の者がその名称を用いてした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う。
この条文にある「善意の第三者」とは、その人が会社の正式な代表取締役ではないことを知らなかった人のことを指します。
知っておくべき理由
この「表見代表取締役」という言葉を知らないと、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。例えば、あなたが個人事業主として会社と取引をする場面を想像してみてください。
ある日、取引先の担当者が「私はこの会社の代表取締役です」と名刺を差し出してきました。名刺には確かに「代表取締役」と書かれており、会社のウェブサイトにもその人が代表取締役として紹介されています。あなたは安心して、その人と大きな契約を結びました。しかし、後日、その人が実は代表取締役ではなく、単なる部長職だったことが判明しました。
この場合、あなたが「その人が代表取締役ではない」と知っていたり、少し注意すれば簡単に知ることができたにもかかわらず、それを怠っていたりすると、会社はその契約について責任を負わないと主張してくるかもしれません。そうなると、あなたは契約が履行されないだけでなく、これまで費やした時間や費用が無駄になってしまうリスクがあります。
また、あなたが会社の経営者や役員である場合も同様です。もし社内で、代表権のない従業員が誤解を招くような肩書きを使用していたり、会社の代表者として振る舞っていたりすると、その従業員が行った取引について、会社が責任を負わされる可能性があります。これは、会社の財産や信用に大きな損害を与えることにつながりかねません。
このように、表見代表取締役の制度は、取引の安全を守る一方で、その存在を知らないと、個人も会社も予期せぬ損害を被る可能性があるため、注意が必要です。
具体的な場面と事例
表見代表取締役が問題となる具体的な場面はいくつか考えられます。
事例1:新規取引における契約締結
あなたが新しい取引先と契約を結ぶ際、相手方の担当者が「代表取締役」と名乗りました。名刺にもそのように記載されており、会社のウェブサイトにも代表者として顔写真とともに紹介されています。あなたは安心して、数千万円規模の契約書に署名・捺印しました。しかし、後日、その人物が実際には代表権を持たない営業部長であったことが発覚しました。会社側は「その契約は無効である」と主張してきましたが、あなたは「代表取締役だと信じるに足る状況だった」と主張し、会社に契約の履行を求めました。この場合、会社がその人物に代表取締役であるかのような外観を作ったことに責任がある場合、会社は契約の責任を負うことになります。
事例2:会社の重要資産の売却
ある会社の経理部長が、会社の代表取締役の印鑑を無断で使用し、会社の土地を売却する契約を締結しました。この経理部長は普段から対外的に「代表取締役代理」と名乗っており、会社のパンフレットにもその肩書きが記載されていました。土地の買主は、経理部長が代表権を持っていると信じていました。この場合、会社が経理部長に代表取締役代理という誤解を招く名称を使用させていたことに責任があるため、会社は土地の売却契約について責任を負う可能性があります。
事例3:金融機関からの借入
中小企業の専務が、会社の代表取締役の肩書きを使用し、金融機関から多額の融資を受けました。この専務は、日頃から会社の主要な取引先との交渉を担当しており、社内外で「会社の顔」として認識されていました。金融機関は、この専務が代表取締役であると信じて融資を実行しました。しかし、実際には専務は代表権を持っていませんでした。この場合も、会社が専務に代表取締役であるかのような外観を作ったことに責任がある場合、会社は融資契約について責任を負うことになります。
これらの事例からわかるように、表見代表取締役の問題は、契約の有効性や会社の責任範囲に直結する重要な問題です。
覚えておくポイント
- 「代表取締役」という肩書きだけで安易に信用しない:名刺やウェブサイトの記載だけでなく、会社の登記簿謄本を確認するなど、正式な代表権の有無を確認する習慣を持つことが重要です。
- 会社側は、代表権のない者に誤解を招く肩書きを使わせない:従業員が対外的に「代表取締役」やそれに類する肩書きを使用していないか、社内規定を整備し、日頃から注意を払う必要があります。
- 取引相手が「善意の第三者」であるかが重要:もしあなたが、相手が正式な代表取締役ではないことを知っていたり、知ることができたにもかかわらず注意を怠っていたりすると、会社に責任を追及できない可能性があります。
- トラブル発生時は速やかに弁護士に相談する:表見代表取締役の問題は、事実関係の認定や法的判断が複雑になることが多いため、専門家のアドバイスが不可欠です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。