危険負担とは?契約が果たされないリスクを誰が負うのか

危険負担とは

「危険負担」とは、契約が成立した後、当事者のどちらの責任でもない理由によって、契約の内容が履行できなくなった場合に、その損害や不利益をどちらの当事者が負うのか、という問題のことです。

例えば、売買契約が成立した後に、引き渡す予定だった商品が地震や火災などの自然災害で滅失してしまった場合を考えてみましょう。このとき、売主は商品を渡せなくなり、買主は商品を受け取れなくなります。このような状況で、売主は代金を請求できるのか、買主は代金を支払う必要があるのか、といった問題が生じます。このリスクをどちらが負担するのか、という点が危険負担の考え方です。

民法では、危険負担について原則が定められています。特定物の売買契約においては、買主が危険を負担するとされていました(旧民法534条)。これは、買主が商品を受け取ることができなくても、代金を支払わなければならないということを意味します。しかし、2020年4月1日に施行された改正民法では、この原則が見直され、債務者主義が採用されました。これは、給付を受けられなくなった側(買主)が、反対給付(代金支払い)を拒否できるという考え方です。

民法第536条(債務者の危険負担等) 1. 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。 2. 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

この改正により、原則として、売主が引き渡せなくなった場合、買主は代金を支払う必要がなくなった、と理解することができます。ただし、当事者間の合意によって、この原則とは異なる取り決めをすることも可能です。

知っておくべき理由

危険負担のルールを知らないと、思わぬ損害を被る可能性があります。特に、高額な取引や、引き渡しまでに時間がかかる契約においては、この知識が非常に重要になります。

例えば、あなたが中古車を購入する契約を結んだとします。契約書には危険負担に関する特別な記載がなく、引き渡しは1週間後と定められました。ところが、引き渡し前日に、販売店の駐車場で、第三者の不注意によってその車が全損してしまいました。この場合、旧民法の考え方では、あなたは車を受け取れなくても代金を支払わなければならない、という状況に陥る可能性がありました。しかし、現在の民法では、販売店が車を引き渡せなくなったため、あなたは代金の支払いを拒否できるのが原則です。もし、このルールを知らなければ、あなたは販売店から代金の支払いを求められた際に、それを拒否する根拠が分からず、不当な要求に応じてしまうかもしれません。

また、個人間で物品を売買する際にも注意が必要です。例えば、インターネットオークションで希少な美術品を落札し、代金を支払った後に、配送中にその美術品が破損してしまった場合です。もし出品者との間で危険負担に関する取り決めが明確でなければ、誰がその損害を負担するのかでトラブルになる可能性があります。代金を支払ったのに商品が手元に届かない、または破損した状態で届いたのに、代金が返ってこない、といった事態に直面するかもしれません。

このように、危険負担のルールを知らないと、契約が履行されなかった場合に、不利益を一方的に押し付けられたり、本来支払う必要のない代金を支払ってしまったりするリスクがあるのです。

具体的な場面と事例

危険負担が問題となる具体的な場面は多岐にわたります。

  • 不動産売買契約
    • 事例:AさんがBさんの土地と建物を購入する契約を結びました。しかし、引き渡し前に、想定外の落雷により建物が全焼してしまいました。この場合、改正民法によれば、Bさんは建物を引き渡すことができないため、Aさんは代金の支払いを拒否できます。もしAさんが既に代金を支払っていた場合は、その返還を請求できます。
  • 物品売買契約
    • 事例:CさんがDさんの工房で制作された一点物の工芸品を購入しました。完成後、配送業者に引き渡す前に、工房で火災が発生し、工芸品が焼失してしまいました。この場合も、Dさんは工芸品を引き渡せないため、Cさんは代金の支払いを拒否できます。
  • 請負契約
    • 事例:EさんがF工務店に自宅のリフォームを依頼しました。工事の途中で、予測不能な台風により、完成間近だった部分が大きく損壊してしまいました。この損壊がF工務店の責任ではない場合、原則としてF工務店は損壊した部分を再度工事する義務を負い、Eさんはその追加費用を支払う必要はありません。

これらの事例からわかるように、契約の内容が、当事者のどちらの責任でもない理由で履行できなくなった場合、誰がその不利益を負うのかが危険負担の問題となります。

覚えておくポイント

  • 危険負担とは、契約が成立した後、当事者の責任ではない理由で契約が履行できなくなった場合に、その不利益を誰が負うのかという問題です。
  • 2020年4月1日の民法改正により、原則として、給付を受けられなくなった側(債権者)は、反対給付(代金など)の履行を拒否できるようになりました。
  • 契約書に危険負担に関する特約がある場合、民法の原則よりも特約が優先されることがあります。契約を結ぶ際は、危険負担に関する条項の有無をよく確認しましょう。
  • 不測の事態に備え、高額な取引や重要な契約においては、保険の加入を検討することも有効なリスク回避策の一つです。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。