錯誤とは

錯誤(さくご) とは、契約などの法律行為を行う際に、その内容や前提となる事実について、当事者が勘違いをしている状態を指します。民法では、この錯誤が一定の条件を満たす場合、その法律行為を無効とすることができると定められています。

錯誤には、主に以下の2種類があります。

  • 意思表示の錯誤(要素の錯誤):契約の内容そのものについて勘違いをしている場合です。例えば、「Aという商品を売るつもりだったのに、間違ってBという商品を売る契約書にサインしてしまった」といったケースがこれに該当します。
  • 動機の錯誤:契約の動機や前提となる事実について勘違いをしている場合です。例えば、「この土地は将来値上がりすると勘違いして購入したが、実際には値下がりする一方だった」といったケースです。動機の錯誤の場合、その動機が相手方に表示され、それが法律行為の基礎となっていた場合に限り、錯誤による無効を主張できる可能性があります。

民法では、錯誤による無効を主張するためには、その錯誤が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること」が必要とされています。また、錯誤をした当事者に「重過失」があった場合は、原則として無効を主張できません。

(錯誤) 民法第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。 一 意思表示に対応する意思を欠いていたこと。 二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反していたこと。 2 前項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。 3 第1項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。 4 第1項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、意思表示の取消しをすることができない。 一 表意者に重大な過失があったとき。ただし、相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。 二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

※民法は2020年4月1日に改正され、錯誤の効果が「無効」から「取り消し」に変更されました。しかし、実質的な効果としては、取り消されると最初から無効であったとみなされるため、本記事では分かりやすさを重視し「無効」という表現も用いています。

知っておくべき理由

錯誤という言葉を知らないと、思わぬ不利益を被る可能性があります。例えば、あなたは次のような状況に陥るかもしれません。

  • 高額な商品を誤って購入してしまう:インターネット通販で商品の型番を間違えて注文してしまい、届いたものが欲しかったものと全く違う高額な商品だったとします。「間違えたのは自分だから」と諦めて代金を支払ってしまうと、大きな損失になります。しかし、もしその錯誤が重要なものであれば、契約の無効を主張できる可能性があります。
  • 不利な条件の契約を結んでしまう:不動産売買の契約で、説明された内容と実際の物件の状況が大きく異なっていたとします。例えば、「日当たり良好」と聞いていたのに、実際は隣の建物でほとんど日が当たらないなどです。この場合、契約の前提となる重要な事実に錯誤があったとして、契約の無効を主張できるかもしれません。しかし、錯誤を知らなければ、不利な契約に縛られ続けることになります。
  • 相続で不公平な遺産分割に同意してしまう:相続財産の中に、実際には価値のない骨董品が高価なものだと勘違いして、その分を多く受け取ることに同意してしまったとします。後になってその事実を知っても、すでに合意してしまった遺産分割を覆すことは容易ではありません。

このように、錯誤の知識がないと、自分の勘違いによって不利益を被った際に、それを是正する機会を逃してしまう可能性があります。

具体的な場面と事例

事例1:インターネットオークションでの商品購入

Aさんは、インターネットオークションで「限定品のスニーカー」が出品されているのを見つけました。商品説明には「サイズ27.0cm」と記載されており、Aさんは自分のサイズに合うと思い込み、高値で落札しました。しかし、実際に届いたスニーカーは、商品説明の画像では判別できなかったものの、実はキッズ用の27.0cmで、大人の足には小さすぎるものでした。

この場合、Aさんは「サイズ27.0cm」という表示から、成人用のスニーカーであると勘違い(錯誤) していました。この勘違いがなければ、Aさんはこのスニーカーを落札しなかったでしょう。スニーカーのサイズは、購入の重要な要素であるため、Aさんは錯誤を理由に契約の無効を主張できる可能性があります。

事例2:土地の売買契約

Bさんは、将来的に道路が拡張されるという話を聞き、その道路に面する土地を購入しました。購入契約の際にも、不動産会社から「将来的に道路が拡張される予定です」と説明を受け、それが契約の重要な動機となりました。しかし、契約後に役所に確認したところ、道路拡張の計画はすでに中止されており、その土地が道路に面することは今後もないことが判明しました。

このケースでは、Bさんは「道路拡張」という事実を勘違い(動機の錯誤) していました。この動機がなければ、Bさんはこの土地を購入しなかったでしょう。また、不動産会社もその動機を認識していたため、Bさんは錯誤を理由に契約の無効を主張できる可能性があります。

覚えておくポイント

  • 契約内容や前提事実の勘違いが「錯誤」です。
  • 錯誤による無効を主張できるのは、その勘違いが重要なものである場合に限られます。
  • 自分の重過失による勘違いの場合、原則として無効を主張できません。
  • 契約を結ぶ前には、内容や前提事実をよく確認することが重要です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。