共同不法行為とは

共同不法行為とは、複数の人が共同して他人に損害を与えた場合に、その損害賠償責任を負うことを定めた民法の制度です。民法第719条に規定されており、一人ひとりの加害者がそれぞれ、被害者に対して損害の全額を賠償する責任を負う点が大きな特徴です。

例えば、AさんとBさんが共謀してCさんに暴行を加え、Cさんが怪我を負ったとします。この場合、AさんもBさんも、それぞれCさんに対して、Cさんが被った損害の全額を賠償する責任を負います。Aさんが「私は少ししか殴っていない」と主張しても、CさんはAさんに対して全額の賠償を求めることができますし、Bさんに対しても全額の賠償を求めることができます。

この「共同して」という点には、必ずしも事前に打ち合わせや共謀があった場合に限りません。例えば、それぞれが意図しなくても、結果的に共同で損害を生じさせた場合も含まれます。具体的には、以下のようなケースが共同不法行為とみなされることがあります。

  1. 共同加害:複数の人が共同で一つの行為を行い、それが損害を生じさせた場合です。上記の暴行の例がこれにあたります。
  2. 関連共同行為:それぞれが別の行為を行ったものの、それらの行為が密接に関連し、結果として共同で損害を生じさせた場合です。例えば、危険な運転をする車を複数の車が競い合うように追走し、そのうちの一台が事故を起こして歩行者に損害を与えたようなケースです。
  3. 教唆・幇助:他人に不法行為を行うようにそそのかしたり(教唆)、手助けしたり(幇助)した場合も、その不法行為の実行者と共同不法行為者として扱われます。

共同不法行為が成立すると、被害者は加害者の一人からでも損害の全額を賠償してもらうことができます。これを「連帯責任」と呼びます。被害者にとっては、どの加害者がどれだけの責任を負うのかを細かく立証する必要がなく、賠償を受けやすいというメリットがあります。一方、賠償金を支払った加害者は、他の共同不法行為者に対して、各自の責任の割合に応じて負担を求めることができます。これを「求償権」といいます。

知っておくべき理由

共同不法行為は、近年、特にインターネット上の誹謗中傷や、企業活動における不祥事、あるいは複数の事業者が関わる大規模な事故などで注目される機会が増えています。

インターネットの普及により、SNSなどでの誹謗中傷が社会問題となっています。匿名性が高い環境で、複数のユーザーが特定の個人を攻撃するようなケースでは、誰がどの程度の書き込みをしたのか、誰が最も悪質だったのかを特定するのが難しいことがあります。このような場合、共同不法行為の考え方が適用され、関与した複数のユーザーが一体となって被害者への賠償責任を負う可能性があります。

また、企業活動においては、複数の部署や関連会社が関与する不祥事や、複数の下請け企業が関わる製品の欠陥などが問題となることがあります。例えば、製品の設計ミスと製造工程での手抜きが複合的に絡み合って事故が発生した場合、設計会社と製造会社が共同不法行為責任を負う可能性があります。

さらに、近年では、環境汚染や大規模な自然災害に関連する人為的な損害など、複雑な原因が絡み合う事故も増えています。このような場合、原因究明が困難であったり、複数の主体が関与していたりすることが多く、共同不法行為の法理が適用されることで、被害者の救済が図られることがあります。

このように、現代社会の複雑化や情報化の進展に伴い、単独の加害者による不法行為だけでなく、複数の主体が関与する損害発生の場面が増加しているため、共同不法行為の考え方がより一層重要視されているのです。

どこで使われている?

共同不法行為の考え方は、様々な民事訴訟の場面で適用されています。具体的な例をいくつかご紹介します。

  1. 交通事故:複数の車両が関与する玉突き事故や、複数の運転手が危険運転を行った結果生じた事故などで適用されることがあります。例えば、A車がB車に追突し、そのB車がC車に追突したような場合、A車とB車がC車への損害について共同不法行為責任を負うと判断されることがあります。
  2. 医療過誤:複数の医師や看護師、あるいは病院組織全体が関与する医療ミスによって患者に損害が生じた場合です。例えば、執刀医の過失と、術後の看護師の観察不足が重なって患者の容態が悪化したようなケースでは、複数の医療従事者や病院が共同不法行為責任を問われる可能性があります。
  3. 建築・土木工事:設計会社、施工会社、下請け会社など、複数の業者が関わる工事で欠陥が生じ、建物や周辺住民に損害を与えた場合です。それぞれの業者が担当した部分に過失があった場合、共同で損害賠償責任を負うことがあります。
  4. インターネット上の誹謗中傷:前述の通り、複数のユーザーがSNSや匿名掲示板などで特定の個人に対する誹謗中傷を投稿した場合、共同不法行為として責任を追及されることがあります。また、サイト運営者が投稿を放置したことで被害が拡大した場合、運営者も共同不法行為責任を負う可能性が指摘されることがあります。
  5. 製品の欠陥:製品の設計者、製造者、販売者など、複数の事業者が関与して欠陥製品が市場に出回り、消費者に損害を与えた場合です。製造物責任法とは別に、共同不法行為の法理が適用されることもあります。

これらの事例からもわかるように、共同不法行為は、複雑な損害発生の原因を抱える現代社会において、被害者の救済を図るための重要な法制度として機能しています。

覚えておくポイント

共同不法行為について理解しておくべき実践的なポイントは以下の3点です。

  1. 「共同」は必ずしも共謀を意味しない:共同不法行為が成立するために、加害者同士が事前に話し合って計画を立てる必要はありません。それぞれが独立した行為を行ったとしても、それらの行為が一体となって損害を生じさせた場合には、「共同」とみなされることがあります。このため、意図せずとも共同不法行為の責任を負う可能性があることを認識しておくことが重要です。
  2. 被害者は誰にでも全額請求できる:共同不法行為の最大のポイントは、加害者全員が損害の全額について責任を負う「連帯責任」である点です。被害者は、複数の加害者のうち、資力のある一人を選んで全額の賠償を請求することができます。これにより、被害者は加害者間の責任割合を細かく立証する負担から解放され、より確実に賠償を受けられる可能性が高まります。
  3. 賠償した加害者には「求償権」がある:もし共同不法行為者の一人が被害者に対して損害の全額を賠償した場合、その加害者は、他の共同不法行為者に対して、それぞれの責任の割合に応じて支払った金額の一部を請求することができます。これを求償権といいます。例えば、AさんとBさんが共同不法行為者で、Aさんが被害者に全額を支払った場合、AさんはBさんに対してBさんの責任割合に応じた金額を請求できるということです。この求償権を行使するためには、別途、他の加害者に対して請求を行う必要があります。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のトラブルについては、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。